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公費負担医療制度について。医療を全額「公費負担」で受けられる制度もある?

病気の種類や患者の境遇によっては、法律や予算措置に基づいて医療費の全額あるいは一部を国や地方自治体の公費で負担する公費負担医療制度があります。また、地方自治体によっては、自治体が独自に行う医療費助成制度もあります。それぞれどのような制度で、どのようなケースが該当するのかなどをおさえておきましょう。

目次

医療を全額「公費負担」で受けられる制度がある?

・日本では誰もが何かしらの医療保険に加入している
「医療を全額『公費負担』で受けられる制度があるらしい」と聞いたことはありませんか?日本の医療保障制度には、病気の種類や患者の境遇などに応じて、法律や予算措置に基づいて医療費の全額あるいは一部を国や地方自治体の公費で負担する「公費負担医療制度」があります。

そもそも、日本の医療保障は公的医療保険制度を柱として組み立てられ、原則として誰もが何かしらの「公的医療保険」に加入しています(国民皆保険制度)。そのため、病気やけがをして医療機関で医療サービスを受けた場合でも、かかった医療費の全額を自己負担する必要はありません。

 
また、医療機関や薬局の窓口で払う医療費(自己負担)が1カ月の上限額を超えた場合には、超えた額を支給する「高額療養費制度」があります。なお、上限額は年齢や所得などに応じて決められています。

・病気の種類や患者の境遇によっては全額「公費負担」も
 日本の医療保険制度で、「医療保険」や「後期高齢者医療制度」と並ぶ大きな柱が「公費負担医療制度」です。

「公費負担医療制度」の目的は、大きく5つに分けることができます。
・社会的弱者の救済
・障害者の福祉
・戦争への国家補償、健康被害への救済
・難病・慢性疾患の治療研究と助成
・公衆衛生の向上

ここからもわかるように、公費負担医療制度は生活保護などの社会的弱者や難病など特定の疾病に苦しむ人々などが対象になります。

・制度ごとに定められた障害や病気の治療法が対象
公費負担医療は、制度ごとに定められている障害や病気の治療法を対象とします。

公費負担医療の受給者であっても、公費の対象にならない病気やけがに対する医療は、一般の保険診療(公的医療保険の対象)になります。ただし、生活保護法の医療扶助のように、すべての医療を公費負担医療の対象とするものもあります。

主な公費負担医療制度は図表1の通りです。

公費負担医療のほとんどは「保険優先」

・公費負担医療には「公費優先」と「保険優先」がある
公費負担医療での費用の負担方法には、対象となる医療費の全額を公費で負担する「公費優先」と、医療保険の給付が優先され、一部負担金(自己負担)などを公費で負担する「保険優先」があります(図表2)。制度によっては、入院の食費や、医療保険の対象とならない移送の費用も公費で負担されます。

・公費負担医療のほとんどは「保険優先」
「医療を全額、公費負担で受けられる制度があるらしい」と知り、どのような場合に「全額公費負担」に該当するのかが気になった人も多いのではないでしょうか。ですが、現状では、公費負担医療のほとんどは「保険優先」となっています。

つまり、ほとんどの場合、医療保険での給付が優先され、一部負担金(自己負担)などだけが公費で負担されるのです。ただし、患者が公的医療保険に加入していない場合には「保険優先」に該当するケースであっても全額が公費負担となります。

また、「公費優先」、「保険優先」とも、患者自身やその扶養義務者(世帯)の収入によっては、自己負担が発生します。医療費が高額な場合には、健康保険の「高額療養費制度」が支給され、その後に公費の助成が行われます。

・保険優先の公費負担医療の例
では、保険優先の公費負担医療にはどのようなものがあるのかを見ていきましょう。なお、公費負担医療制度には該当するものの、疾病や患者の境遇などによっては窓口負担(自己負担)が必要なケースもありますが、ここでは原則として窓口負担がないものについてのみ取り上げています。

●児童福祉法(療育医療)
「療育医療」は、18歳未満の児童の福祉を保障する「児童福祉法」に基づいて、結核で入院している児童に対しては、医療だけでなく、入院中の教育面や生活面の支援についても給付を行う制度です。

入院などの治療は、厚生労働大臣が指定する指定療育機関で行われます。診察のほか、薬剤や治療材料の支給、医学的処置、手術やその他の治療、施術、医療機関への入院と診療に伴う世話や看護、移送が医療給付の対象になります。

「療育医療」は、医療保険が優先され、自己負担分全額が公費負担医療の対象になります。そのため、医療機関などの窓口で負担するお金はありません。ただし、患者と生計を一にする(日常の生活費等を共にする)扶養者の前年分の所得税が147万円を超える場合は、2万円を限度に自己負担が発生します。

●児童福祉法(児童福祉施設措置医療)
乳児院や児童福祉施設、児童自立支援施設などに入所する児童や、一時保護所で保護されている児童、里親に委託されている児童などが、病気などで医療を受ける際の医療費を公費で負担する制度です。すべての医療機関で行われる医療が対象です。

医療保険が適用される児童は医療保険の適用が優先され、自己負担分は全額が公費負担対象です。なお、医療保険に加入していない場合には、全額が公費負担となります。

●母子保険法(養育医療)
出生児が未熟児だった場合に、必要な医療費を支援
する制度です。出生時の体重が2,000グラム以下など、所定の状態に該当する場合が対象になります。

療育医療は医療保険が優先され、自己負担分は全額公費負担の対象となりますが、保護者の負担能力に応じて自己負担金が課されます。

●難病の患者に対する医療等に関する法律(特定疾患治療研究事業)
現在の医療では原因が特定されず、治療法も確立していない難病について、医療の確立・普及を図るとともに、医療費の一部を公費で負担し、医療費の負担軽減を目的とした制度です。

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医療費は医療保険優先で、自己負担分が全額公費負担の対象になります。

国が定める4疾患は、以下の通りです。
・スモン
・難治性肝炎のうち劇症肝炎(新規申請は受付不可)
・重症急性膵炎(新規申請は受付不可)
・プリオン病(ヒト由来乾燥硬膜移植によるクロイツフェルト・ヤコブ病に限る)
・重症多形滲出性紅斑(急性期)重症多形
このほかに、都道府県が独自に定める対象疾患もあります。
なお、給付は、認定された疾患および付随する疾患に対する医療費に限られます。

●石綿による健康被害の救済に関する法律(石綿健康被害救済制度)
石綿(アスベスト)に関連する仕事をしていた人で、(1)中皮腫、(2)肺がん、(3)著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺、(4)著しい呼吸障害を伴うびまん性胸膜肥厚、(5)良性石綿胸水の健康被害にあった人は、「労働者災害補償保険制度(労災保険制度)」による補償を受けることができます。

これに対し、石綿に関わる仕事をしていた人の家族や、石綿製品の製造工場などの近隣に居住していた人などで石綿に関連する病気を発症した人は労災の対象にはなりません。その場合は「石綿健康被害救済制度」によって、「救済給付」や「特別遺族給付金」を受けられます。

このうち「救済給付」では、4つの指定疾病(上記1~4)の治療に伴う医療について、自己負担分が全額公費の対象になります。

●感染症法(一類感染症、二類感染症)
感染症法は、感染症の予防及び蔓延を防止し、公衆衛生の向上と増進を図ることを目的とした制度です。

感染症のうち、一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症については、医療保険優先で、自己負担分(医療費の一部負担金及び食事療養の標準負担額)は全額公費負担(入院医療のみが対象)になります。ただし、所得税額によって自己負担があります。

なお、一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症は、以下の疾病が対象となります。

[一類感染症]エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱
[二類感染症]急性灰白髄炎(ポリオ)、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARSコロナウイルスに限る)、結核、鳥インフルエンザ(H5N1)、鳥インフルエンザ(H7N9)、中東呼吸器症候群(MERS)

[新型インフルエンザ等感染症]新型インフルエンザ、再興型インフルエンザ

[指定感染症]新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス〈2020年1月に中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る〉であるものに限る)

●感染症法(結核入院医療)
結核を感染させるおそれがある場合には、患者に入院が勧告
されます。その際の入院治療に必要な医療費を全額公費で負担する制度です。結核に感染し、蔓延させるおそれがあると認められた人が対象になります。

原則は全額公費負担となっていますが、医療保険の給付を受けられる場合には、医療保険が優先されます。そのため、ほとんどの場合は、自己負担分などだけが公費負担の対象になります。

また、患者や配偶者、生計を一にする家族の前年分の所得税の合計年額が147万円を超える場合には、2万円を上限に自己負担が発生します。

●精神保健福祉法(措置入院)
自傷他害のおそれがある精神障害者などを、都道府県知事が強制的に入院医療や保護
を行い、社会復帰や自立支援を行う制度です。

措置入院、緊急措置入院について、自己負担分の全額が公費負担の対象となります(保険優先)。

ただし、患者本人やその配偶者、生計を一にする扶養義務者の前年の所得税の合算が147万円を超える場合には、2万円を限度に自己負担が発生します。

全額公費負担(公費優先)になる場合とは?

公費負担医療制度では、医療費の全額が公費負担(公費優先)になるケースもあります。その例を見ていきましょう。

●戦傷病者特別援護法(戦傷病者療養給付/戦傷病者再生医療)
戦争への国家補償や公務による健康被害救済を目的とした制度です。

軍人や軍属(軍人ではなく軍隊に所属する人)で、公務によって傷病を負った人に対し、全額国庫負担で療養費や再生医療を給付します。「戦傷病者手帳」を交付され、都道府県知事が指定する医療機関での医療が対象になります。

なお、公務によるものと認定されない傷病は、医療保険のみが適用されます。

●原子爆弾被害者に対する援護に関する法律(原爆認定医療)
「原爆認定医療」は、原子爆弾の被爆者に対する医療給付制度
で、下記のいずれかに該当し、被爆者手帳の交付を受けた人の「認定疾患」が対象となります。

・直接被爆した人と胎児
・原爆投下から2週間以内に爆心地から約2キロの範囲内に立ち寄った人と胎児
・被爆者の救護活動に従事するなど身体に原爆放射能の影響を受ける状況下にあった人と胎児

「認定疾患」は原爆症に伴う、再生不良性貧血、白血病・肺がん・甲状腺がんなどの悪性新生物などが該当し、医療費は全額が国費で負担されます。

●感染症法(新感染症)
感染症法は、感染症の予防及び蔓延を防止し、公衆衛生の向上と増進を図ることを目的とした制度です。

感染症は、指定感染症、新感染症、一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、の8つに分類されています。

このうち新感染症は、人から人に伝染することが認められる疾病で、既に知られている感染性の疾病と病状または治療の結果が明らかに異なるもので、重篤かつ国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものが該当します。

新感染症については、医療費が全額公費負担されますが、現在、対象となる疾病はありません(所得税額により2万円を上限に自己負担がある)。

●心神喪失等の状態で重大な他害行為を行ったものの医療及び観察等に関する法律(心神喪失)
心神喪失などの状態で重大な他人に害を及ぼす行為を行った人が、刑事責任能力がないものとして不起訴、無罪になった場合に、適切な処遇決定のための手続などを定めた制度です。

継続的かつ適切な医療とその確保のために必要な観察・指導を行うことで、病状の改善と再発防止を図り、社会復帰を促進することが目的です。

対象となるのは、殺人などの重大な罪について、
・心神喪失または心神耗弱で不起訴となった者
・心神喪失を理由に無罪判決が確定した者
・心神耗弱により刑を減軽された有罪判決が確定した者(実刑を除く)
などです。

医療費は全額公費負担(公費優先)で、厚生労働大臣が指定した指定入院医療機関または指定通院医療機関で行う医療が対象となります。

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●公害健康被害の補償等に関する法律(公害医療)
公害の未然防止の施策を明らかにするとともに、公害被害に関する救済の円滑な実施を図ることを目的とした制度です。指定疾病に罹患していることを認定され、公害医療手帳の交付を受けた人が対象となります。

指定疾病は以下の通りです。
・慢性気管支炎
・気管支ぜん息
・ぜん息性気管支炎
・肺気腫
・水俣病
・イタイイタイ病
・慢性砒(ヒ)素中毒病

公害医療は、医療費の全額が公費負担となります。また、一定の条件に該当する場合は、障害補償費、遺族補償費、遺族補償一時金、児童補償手当、療養手当、葬祭料についても給付があります。

●生活保護法(医療扶助)
生活保護法は、生活困窮者に対し保護を行い、健康で文化的な最低限の生活を保障することにより自立を助長することが目的です。

生活保護法には8つの扶助があり、そのうちのひとつが「医療扶助」で、生活保護の認定を受けた生活困窮者の医療が対象になります。

生活保護法が適用されると、国民健康保険や後期高齢者医療の被保険者資格を喪失します。そのため、医療費は全額が公費負担になります。

ただし、患者自身や扶養義務者(世帯)が公的医療保険や共済組合などに加入している場合は、各種医療保険が優先的に適用され、自己負担分が公費負担医療(生活保護の医療扶助)の対象になります。

また、医療扶助以外の公費負担医療がある場合は、そちらが優先され、自己負担分がある場合には生活保護の医療扶助(公費負担)の対象となります。

自治体が独自に行う医療費助成制度もある

地方自治体が独自に行う医療費助成制度もあります。大きく分けると、医療費の自己負担分を助成する制度のほか、国の公費負担制度の自己負担分を助成する制度、国の公費負担医療の対象を拡大する制度などがあります。

対象者や支給要件などは、地方自治体によって異なるので、詳細についてはお住まいの市区町村の窓口などで確認してください。

・公費負担医療の手続きの流れ
公費は、自動的に支給されるわけではありません。
公費負担を希望する人やその代理人が公費の給付申請をすることが必要です。

申請の方法や流れは、制度によって異なりますが、おおまかな流れは図表4のようになります。詳細については、保健所や自治体の窓口で確認してください。

「医療が給付される」とは、国の負担で診察や治療などが受けられることを言います。
なお、公費負担や医療費助成を受けている場合、加入する公的医療保険(健康保険や共済組合など)に届け出を行わないと、高額療養費制度の還付金などとの二重受給が発生してしまいます。

二重受給にならないよう調整する必要があるため、公費医療負担制度や自治体独自の医療助成制度の対象になった場合には、すぐに加入する公的医療保険に届け出を行いましょう。

公費負担医療制度や自治体独自の医療助成制度を受けることで、家計の負担が軽減されるケースは少なくありません。にもかかわらず、制度の存在を知らずにいたり、知っていても申請手続きを行わず、受給できていない場合もあります。

また、公費負担医療制度のほとんどが「保険優先」であるうえ、患者本人や家族の収入などによっては自己負担が発生する場合も少なくありません。

「児童福祉法」の「療育医療」のように差額ベッド代などの保険外費用は自己負担になるケースもあれば、一類感染症や二類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症のように入院医療のみが公費負担医療の対象になる場合もあります。

つまり、「公費負担医療制度」の対象になる疾病や状況であっても、自己負担がないとは限らないのです。自分や家族の思わぬ病気やけがに備えるためにも、FPなどのお金の専門家に相談してみるといいでしょう。

※本ページに記載されている情報は2020年8月1日時点のものです 

【参考文献】
公益社団法人 東京都医師会「公費負担医療の手引」(2019年9月)
https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/medical_insurance/application/pdf/99.kouhi-entire.pdf

東京都 公費負担医療各法等の患者負担一覧
https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/medical_insurance/application/pdf/0-4.ichiran.pdf

「すぐに役立つ 公費負担医療の実際知識―事例・図解による請求事務マニュアル 2020年版」(医学通信社)安藤秀雄、栗林令子 共著

「ユーキャンの医療事務お仕事マニュアル ゼロからわかる公費ガイド」(ユーキャン 学び出版)酒井深有  監修

(監修) 株式会社プラチナ・コンシェルジュ(かぶしきがいしゃ ぷらちな・こんしぇるじゅ)

確かな知識とホスピタリティを備えたファイナンシャル・プランナーやキャリアコンサルタントを全国にネットワークしています。”Life Architect~自分の人生は自分で創る”というコンセプトのもと、セミナー・相談・執筆・ツール提供などを通じて、生涯設計のお手伝いを行っています。 http://pt-con.jp/