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年金の繰り下げする?しない?70歳からの年金はお得なのか

FPが年金の繰り下げについて解説!65歳以降も働く人が増えてきた昨今、年金をもらい始める時期を遅らせる「繰り下げ受給」への注目が高まりつつあります。年金額が増えるとされている繰り下げですが、本当にお得かどうか、よく考えてみましょう。

目次

年金の繰り下げ受給とは

・65歳以降も働く人が増えている
現在の高齢者雇用安定法では、希望すれば65歳までは働けるよう、雇用が確保されています。ところが、実際、65歳を過ぎても働く人は少なくありません。内閣府が2018年2月に発表した「高齢社会対策大綱」によると、60歳以降の就業率は次の通りとなっています。

また、2018年11月に内閣府が全国の満18歳以上の人を対象に行った「老後の生活設計と公的年金に関する世論調査」では、何歳まで仕事をしたいかという問いに対して、66歳以降も働きたいと答えている人が4割近くいることがわかります。

 

 

これを見ると、男性と女性で希望する最終就労年齢に差はあるものの、全体では「61歳~65歳まで」を筆頭に、「66歳~70歳」「71歳~75歳まで」と高齢になっても就労したいと考える人が多いことがわかりますね。

・仕事をしたい理由はお金と心のゆとり
次に「なぜその年齢まで働きたいか」という項目に注目してみましょう。これをみると生活費の補填というよりも、経済的なゆとりを得ることや、働いたり、社会との関わりを持つことで心のゆとりを希望する人が多いことが考えられます。

 

 

長く働いて収入を得ることは、65歳以降の生活資源のベースとなるべき公的年金への考え方も変わってくるかもしれません。公的年金の本来の受給開始年齢は65歳ですが、65歳より早くもらい始めることも、65歳より遅くもらい始めることも可能です。

厚生労働省が公表している「厚生年金保険・国民年金事業の概況(2017年度)」を見ると、新たに国民年金の受給権を得た人(新規裁定者)のうち、繰り上げする人が減ってきている半面、繰り下げは少しずつながらも増えてきている様子です。

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・年金の繰り下げ受給とは
これまで幾度となく制度の改正が行われてきたこともあって、65歳よりも早く(厚生)年金をもらっている人もいるものの、現在の法律では、老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに65歳から支給されるのが原則です。この原則が適用されるのは、
男性:1961年4月1日以前生まれの人
女性:1966年4月1日以前生まれの人
ですから、現在60歳前のほとんどの人が年金をもらい始めることができるのは65歳からということになります。

しかしながら、65歳になってすぐに年金をもらわず、後になってもらい始めることを「繰り下げ受給」といいます。

・繰り下げ受給の仕組み
繰り下げ受給は月単位で繰下げることができます。しかし、65歳からの1年間は月単位での繰下げができません。つまり、繰り下げをする場合、もっとも早くて66歳から。66歳を超えれば66歳1カ月~、66歳2カ月~、etc……と、月単位でもらい始める時期を決めることが可能です。

繰り下げ受給の特徴として、1カ月遅らせるごとに本来の年金額の0.7%分が増額されていきます。

たとえば、66歳になってすぐにもらうなら、12カ月分の繰り下げですから本来の年金額が8.4% (0.7%×12カ月)増額されて支給されます。年金額は次のように計算できます。


本来の年金額が70万円の場合:70万円+70万円×8.4%=75万8,800円
本来の年金額が180万円の場合:180万円+180万円×8.4%=195万1,200円


そして、一旦もらい始めたらその金額は一生続きます。超低金利のご時世に、1年年金をもらうのを待つだけで8%以上増えるのはかなり利回りが良く、かつ下がることがないのは安全な資産運用と言っても過言ではないでしょう。

ただし、上表を見てもわかるように、繰り上げすればするほど年金の増額率はアップしますが、以降に遅らせてもそれ以降年金額は増えません。

前述、「高齢社会対策大綱」によると、今後は70 歳以降の受給開始を選択すればさらに増額率を上げるなど、制度の改善に向けた検討を行っていくことになるようですが、現行制度では70歳時点の42%で止まってしまうことは知っておきましょう。

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繰り下げるときの損益分岐点を知っておく

そもそも公的老齢年金は、生存している限りもらえる終身年金制度です。

つまり、長生きすればするほど多くの年金をもらえるというメリットがある一方、早々に死亡してしまうとその時点で支給停止となってしまいます。人の寿命は誰も前もって知ることができないため、いつまで年金をもらい続けることができるかはわかりませんが、繰り下げを検討する場合はとくに損益分岐点を知っておきたいものです。

次の表は1年ずつ繰り下げる場合に受給する年金額が積み上がっていくかを示した表です。ここでは本来65歳からもらう場合の年金額を180万円と仮定し、計算しています。

色づけした部分は、遅らせてもらい始めた年金が、繰り下げせずに原則年齢でもらう場合を上回るタイミング、つまり損益分岐点です。いずれの場合も年金開始後12年目が損益分岐点になっていることがわかると思います。70歳まで繰り下げると年金額は42%増額されることになりますが、いくら1回当たりに受け取る金額が増えるといっても81歳にならないとそのメリットを享受できないことは知っておく必要があるでしょう。

・繰り下げ損のリスクを抑えるには
厚生労働省の簡易生命表(2017年)によると、65歳時の平均余命は男性が19.57年(84.57歳)、女性が24.43年(89.43歳)ですから、平均余命どおりになれば81歳以降も年金をもらい続けることが可能になる計算で、70歳まで繰り下げるほうが受給総額で見れば得をすることになります。

とはいえ、繰り返しになりますが、自分がいつまで生きるかは誰にもわかりません。その時になって、もっと早く年金をもらい始めておけばよかった……というような繰り下げ損のリスクがあることは頭に入れておきましょう。

そこで、繰り下げ請求の手続きについても知っておきましょう。日本年金機構のサイト上にも記載されていますが、年金を受ける資格ができたとき自動的に支給が始まるものではなく、年金事務所で年金を受けるための手続き(年金請求)を自分自身で行わなければいけません。65歳で請求しないままに何も手続きしなければ、66歳、67歳と自動的に繰り下げになってしまいます。

つまり、繰り下げをすることは決めていても、いつから受け取り始めるか事前に時期を決めておく必要はなく、もらい始めたいときに年金請求手続きをすればいい仕組みです。

仮に70歳まで繰り下げようと思っていた場合でも、途中で年金をもらい始めようと思ったときに手続きしても構いません。たとえば、健康に不安を感じたときなどには、無理して70歳まで繰り下げることなくその時点から年金開始の手続きをすれば、繰り下げ損になる可能性を小さくすることはできるでしょう。

上の表では70歳でもらい始めるよりも、68歳でもらい始めるほうが、81歳までは年金受取総額が多くなっています。人の寿命はわかりませんが、このようなケースもあることは知っておいて損はないでしょう。

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繰り下げ受給のデメリットを知っておく

寿命による繰り下げ損の可能性以外にも、年金の繰り下げにはいくつかのデメリットがあります。これらのデメリットを充分に把握した上で、繰り下げするかどうかを決めなければなりません。

・加給年金がもらえなくなる
公的年金制度には国民年金と厚生年金がありますが、そのうち厚生年金には「加給年金」という制度があります。加給年金とは、被保険者期間が20年以上ある人が、原則65歳になった時点で65歳未満の妻を養っている場合、妻が65歳になるまで厚生年金に加算して支払われるお金のこと。夫の生年月日によって金額は変動しますが、26万円~39万円程度です。ところが繰下げ受給をすることで、この加給年金がもらえなくなる場合があります。

というのは、加給年金は、本来、厚生年金とセットで支払われるものです。厚生年金を繰下げれば加給年金も同時に待機期間に入ります。仮に、夫が70歳まで繰下げるとして、70歳から年金受給が始まる時点で妻が65歳になっていれば加給年金の権利はなくなってしまいます。

加給年金をもらえる期間は夫婦の年齢差によって変動しますから、繰り下げして年金額が増えることと加給年金を失うこととの損得は人によって異なります。「年齢に応じた加給年金の合計額」と「繰り下げによる増額分」を比較して繰り下げの検討をすることが大切です。

・社会保険料や税金が増える
繰り下げすることで年金額が増額することはこれまで説明してきたとおりですが、年金額が増えれば年金額から天引きされる税金および社会保険料などもつられて増える可能性があります。

そもそも口座に振り込まれる年金は「所得税」「住民税」「(国民)健康保険料」「介護保険料」などが引かれた後の「手取り」金額。繰り下げせずに、本来の65歳から年金をもらい始める場合でも徴収されるのは同様です。

ただ、税金や社会保険料は、収入や扶養家族の有無、各種所得控除、居住地域などで変わるため、徴収率は人それぞれに異なりますが、42%分年金収入が増えると見積もっていても、手取りではそのとおりにならないことがあることは知っておきましょう。

また、所得がふえることで「現役並み所得者」に該当するようになれば、国民健康保険や後期高齢者医療制度などの医療保険や介護保険の負担割合が変わる可能性もあることも知っておきましょう。

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繰り下げ方を工夫する方法も

そもそも公的年金制度には国民年金と厚生年金がありますが、これらを合わせて繰り下げないといけない決まりはありません。繰り下げの仕方には次の3パターンがあることをまずは知っておきましょう。
1.基礎(国民)年金のみ繰り下げ
2.厚生年金のみ繰り下げ
3.基礎年金および老齢厚生年金の両方を繰り下げ

たとえば、加給年金の権利がある人の場合で、厚生年金を繰り下げることで加給年金を失うことでトータルの年金額がマイナスに作用するなら1のパターンで基礎(国民)年金のみ繰り下げるのもいいでしょう。厚生年金を本来の65歳から受け取ることで、加給年金も本来どおり支払われます。

・夫婦単位で繰り下げを検討することも
年金の受給や繰り上げ・繰り下げは個人単位で考えることがほとんどですが、夫婦(世帯)単位で考えてみる方法もあります。

平均寿命からも見て取れるように、長生きリスクへの必要性がより高いのは一般的には男性よりも女性です。そこで、あとに残る妻の年金を繰り下げて年金額を増やすことを検討するのもいいでしょう。

もらえる年金額は人それぞれに異なりますが、女性の年金額の方が男性よりも低めの場合が多いものです。繰り下げで年金額が増えると税金や社会保険料の増額や医療・介護負担が上がる可能性がありますが、そもそもベースの年金額が低いほど、その可能性は低めです。

経済的にゆとりのある老後生活を送るためには、年金を繰り下げするのもひとつの方法です。しかし、そもそも年金制度は仕組み自体が複雑で、受給額も過去の加入歴、所得、生年月日、家族構成等々で細かく変わってくるものです。安易に繰り下げしたら年金額が増えて得と考えるのではなく、ファイナンシャルプランナーなど、まずはお金の専門家に相談してみるのがおすすめです。


※本ページに記載されている情報は2019年7月12日時点のものです

【参考文献】
内閣府:高齢社会対策大綱2018年2月
https://www8.cao.go.jp/kourei/measure/taikou/pdf/p_honbun_h29.pdf
内閣府:老後の生活設計と公的年金に関する世論調査2018年度
https://survey.gov-online.go.jp/h30/h30-nenkin/gairyaku.pdf

ほか

續 恵美子

エフピーウーマン

生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに――。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。

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