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知らない親族の借金を返済?!「相続放棄」その時の対処法や注意点

ある日とつぜん、知らない親族や親の「借金の相続手続きを」という郵便が届いた…相続財産には、プラスだけでなくマイナス(負債)もあります。自分の借金ではないのに、返済義務があるのでしょうか?負債を引き継ぎたくない場合は「相続放棄」を行うことができます。その時の具体的な方法や注意点を、ケーススタディーでお伝えします。

最終更新日:2020年9月28日

目次

ある日とつぜん、借金の相続人に…債務者は知らない親族

Mさんは40歳。夫と子どもと、家族3人で暮らしています。ある日、郵便局員から「書留です。ハンコをお願いします」と受け取った封筒は、『内容証明郵便』でした。封筒の表には「ABCファイナンス」の文字。恐る恐る開封すると……
「貴方様はY様の相続人です…って、どういうこと?この人誰?」
突然の債権者からの通知に、何かの間違いとしか思えないMさんです。
「債務はD裁判所、事件番号……!?どうしたらいいの?」
あわててインターネットで検索してみると、どうやら自分の知らない親族が、借金をかかえて債務者となり、自分がその相続人になってしまったということのよう。相続は「親族」が対象で、「相続放棄」をすれば、この債務を引き継がなくて良いということが分かりました。
しかし、そもそも誰の借金なのでしょう?両親ともに他界しているMさんは、翌日早速、父母・祖父母の戸籍を調べました。すると、祖母が再婚だったことが分かりました。一人っ子だと思っていた父親に、実は姉がいたのです。債務者であるYは、Mさんの伯母にあたる人でした。


放棄すれば、債務も債権も引き継がずに済む
Yは生前、配偶者が亡くなってからというもの、段々と生活が派手になりました。土地家屋はあっても金融資産は底をつき、2人の子どもが幾度となく助けましたが、借入金を抱えたまま亡くなりました。次々発見される負債は、既に土地家屋を超えてしまいました。子ども達は2人とも相続放棄を選びました。
しかしそんなことを、Mさんは知る由もありません。
Yの実子たちが相続をすれば、全て親子内の相続で済んだのですが、子どもが全員相続放棄してしまうと、親子の問題では済まなくなります。


放棄すると繰り上がる順位

相続人には順位があります。
配偶者がいる場合は、まず配偶者が相続人になりますが、いない場合は第1、第2、第3の順に相続します。
子どもは第1順位になり、子どもと配偶者が相続人の場合、全て財産を引き継ぐことになります。この場合は、配偶者1/2、子ども全員で1/2です。配偶者がいない場合、子どもが全て相続します。
全ての子どもが相続放棄してしまうと、元々子どもがいない場合と同じになり、配偶者2/3 、第2順位の直系尊属(父母・祖父母)1/3となります。
直系尊属が既に死亡している場合は、第3順位である死亡した人の兄弟姉妹が相続人になり、配偶者3/4、兄弟姉妹全員で1/4となります。
今回の場合は、配偶者は他界、第1順位の子ども全員が相続放棄、第2順位の父母・祖父母既に死亡しているため、第3順位の兄弟姉妹が全額相続人になるのですが、既に兄弟であるMさんのお父様は亡くなっていることから、Mさんが代襲相続することになったのです。
しかし、前の順位の人が相続放棄をしたからといって、裁判所は「次の相続人は貴方ですよ」とは教えてくれません。
相続放棄した人が相続人を調べて教えてくれなければ、全く分からないのです。

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相続放棄は「自分に相続が発生したことを知ってから3ヶ月以内」がマスト

Mさんに債権者からの知らせが来た時、Yの死亡から既に半年が経過していました。
3ヶ月を過ぎているため、Mさんは相続放棄できないのでしょうか。
相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを、知ったときから3ヶ月以内」に行うこととされています。
つまり、Yが亡くなってから3ヶ月ではなく、自分が相続人になったことを「知ってから」3ヶ月以内です。
第1順位の子ども全員が放棄しない限り、第2順位の父母・祖父母、第3順位の兄弟姉妹が相続人になることはありません。そもそも、Yの存在すらMさんは知りませんでした。今回の通知がなければ、知ることはなかった情報です。


相続の放棄は家庭裁判所に申述、受理されて初めて有効
相続放棄は、「被相続人の最後の住所地の家庭裁判所」へ申述し、受理されるといった事務手続きを経て、初めて有効になります。他の相続人に対して「放棄します」と宣言したり、念書を書いたりするだけではダメなのです。
申述が受理されると、「受理通知書」が送られてきます。この通知書のコピーを債権者に送っても良いのですが、「受理証明書」の提出を求められる場合もあります。その場合は別途請求をすることで発行が可能です。

相続放棄の申述に必要な書類は、以下のとおりです。
(1) 相続放棄の申述書
(2) 申立添付書類
1.被相続人の住民票附票又は戸籍附票
2.戸籍謄本(全ての申述人に共通して必要だが、申述人が配偶者なのか、子なのか、兄弟かによって、必要添付書類が異なる)
【配偶者の場合】
3.被相続人(亡くなった人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

【子又は代襲者(子が既に亡くなっている場合は孫・ひ孫等)】…第1順位
3.被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
4.代襲相続人(孫・ひ孫等)の場合は、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

【父母・祖父母(直系尊属)】…第2順位
3. 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
4. 被相続人の子及び代襲者が亡くなっている場合は、その子及び代襲者の出生から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
5. 相続人が祖父母の場合、父母の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

【兄弟姉妹又は代襲者(甥・姪)】…第3順位
3. 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
4. 被相続人の子及び代襲者が亡くなっている場合は、その子及び代襲者の出生から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
5. 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
6. 代襲相続人(甥・姪)の場合は、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

(裁判所HP http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/index.htmlより引用)

なお、先順位の人が提出済み(受理されている等)の場合、同じ書類は添付不要です。
今回の場合のMさんは第3順位ですが、先順位の子どもが放棄したので相続人になったのです。ただ、第2順位の直系尊属は既に死亡していることから、2~6の添付書類が必要です。


被相続人の最後の住所はどうやって調べる?
ところで、Yの最後の住所をどうやって調べたら良いのでしょう。被相続人の最後の住所地の家庭裁判所が分からないと、相続放棄ができません。
祖母の戸籍が分かったのであれば、伯母の本籍地で戸籍の付票を取ります。そこで、伯母の最後の住所が分かります。
本来、戸籍の付票は直系でない場合、委任状がないと取ることができません。しかし、以下の様な「正当な理由」が認められる場合、委任状がなくても請求ができます。
・自己の権利の行使、義務の履行の為に必要
・国、地方公共団体の機関に提出する必要がある
・その戸籍に記載された事項を利用する正当な理由がある
引用 法務省HP (http://www.moj.go.jp/MINJI/minji150.html” target=”_blank”http://www.moj.go.jp/MINJI/minji150.html

Mさんは、集めた戸籍で伯母との関係を明らかにし、送られてきた内容証明で相続放棄をするために家庭裁判所に提出しなければならないことを伝え、無事に伯母戸籍の付票を取ることができました。

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相続放棄を行う際の注意点…書類をどうそろえる?

相続放棄の申述書、こんな所に注意
相続放棄申述書 表面

(出典:裁判所HP 相続放棄の申述書書式に注釈記入)
http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_13/index.html

相続放棄の申述書の用紙は、家庭裁判所で貰うことも、裁判所HPでダウンロードも可能です。また、裁判所HPに記入例があります。
申述人の記名押印の印は、実印である必要はありませんが、相続放棄証明書を申請するときに、同じ印でないと証明書の請求ができません。裏面の申述の理由、放棄の理由は該当する箇所に丸を付けます。資産、負債の欄は、不明の場合は不明と記入します。
相続には、単純承認、限定承認、相続放棄があります。相続人が何人かいる場合、単純承認や限定承認は、相続人全員で行わなければなりません。
しかし、相続放棄は1人で手続きできます。放棄したことを誰かに伝えなければ罰則がある、ということもありません。
ただ、あなたが相続放棄することで、これまで相続人でなかった人が相続人になる場合もあります。
放棄した場合、次の相続人になる人にはなるべく伝えた方が良いでしょう。
手数料も、収入印紙800円と郵便切手256円分程で済みます。(裁判所により異なります)
申請は簡単ですが、受理されると取り消しはできません。
負債のみと思って放棄をし、後から負債以上の資産が見つかっても、放棄の撤回はできません。

財産がどれだけか分からない、負債もどれだけか分からない場合、限定承認という手もあります。こちらも3ヶ月以内に手続きをする必要がありますが、資産の把握がしきれない場合は、期間伸長の手続きを取ることができます。


相続放棄をしても受け取れるもの
相続放棄をしたら、生命保険の受け取りはできないのでしょうか。受取人が本人の場合は相続財産になってしまいますが、本人以外の受取人が指定されていれば、相続放棄をしても死亡保険金を受け取れます。相続財産ではなく、受取人の固有財産だからです。
生命保険は被保険者が死亡することで、受取人に支払われる契約です。
他に、国民健康保険や健康保険の葬祭費(埋葬料)、遺族年金、死亡一時金は、遺族に支払われるものなので、相続放棄をしても受け取れます。
これらの公的保険によるものは、被相続人によって生計を維持されていた家族が、被相続人の死後も生活の助けになるように考えられた国の制度です。
相続放棄も、被相続人の死後、相続人が苦しむことがないように考えられた制度です。

国の制度を知っておくと、いざというときに最悪の状態を避けることができますし、制度を利用することにより、生活にゆとりも生まれます。
知っていて制度を利用する・しないは本人の自由ですが、まずは知識として知っておくことが大切です。
無理なく制度を利用して、お金を有効に使う、殖やすことを生活に取り入れませんか。お金について心配なことがある、将来の不安をどこに相談していいかわからないという場合、まずはお金の専門家であるファイナンシャルプランナーに相談してみるのもよいかもしれません。もちろん、相続や老後資金などについても相談できますよ。

※本ページに記載されている情報は2019年7月23日時点のものです

【参考文献】
裁判所HP http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
法務省HP  http://www.moj.go.jp/MINJI/minji150.html

林 智慮(はやし ちりよ)

ファイナンシャルプランナー(CFP ®) 大学卒業後、技術者として橋梁設計の会社に勤務。結婚後、配偶者の独立に伴い経理・総務担当となり、家庭と仕事のお金の流れを見ていくうちにファイナンシャルプランナー(CFP®)になる。 仕組みや制度を知ることで、暮らしにゆとりが生まれます。より良く生きることができます。