【FPが考察】介護にかかる費用はいくら?負担を減らす方法は?
そろそろ親の介護のことが気になる―介護保険制度があることは知っているけれど、どんな制度なの?自宅介護や施設介護、かかる費用の平均額はどれくらい?世帯分離すると負担が減るって聞いたけれどホント?そんな疑問にFPがお答えします!
目次
介護保険を知ろう!
65歳以上の人口が全人口に占める割合(高齢化率)が21%を超えると「超高齢社会」と呼ばれますが、日本では2007年に高齢化率が21%を超えました。
2018年の調査では全人口の28.1%が65歳以上で、実に3.6人に1人は高齢者というのが現状です。また、今から30年後には、約2.6人に1人が65歳以上、約4人に1人が75歳以上になると予測されています。
高齢化が進むと、介護や支援を必要とする高齢者の人数も増えていきます。社会全体で介護が必要な高齢者を支えていくことを目的として、2000年に介護保険制度が創設されました。
・介護保険の仕組み
被保険者(40歳以上)は、市区町村(保険者)に介護保険料の支払いを行うことにより、介護や支援が必要となった場合に、年収により1~3割の費用負担で介護サービスを受けることができる制度です。
65歳未満の被保険者は、加入している医療制度(健康保険)と一緒に徴収され、65歳以上の被保険者は、原則として年金から天引きされます。
・介護保険のサービス対象者
年齢によって介護保険のサービスを受けることができる条件が異なります。
(1)第1号被保険者…65歳以上の人
寝たきりや認知症等で介護を必要とする状態になったり、日常生活に支援が必要な状態になったりした場合に、サービスを利用することができます。
(2)第2号被保険者…40~64歳で医療保険制度に加入している人
介護を必要とする状態になったり、日常生活に支援が必要な状態になったりした場合のうち、16種類の特定疾病(※)が原因のときに限りサービスを利用することができます。
※16種類の特定疾病
筋萎縮性側索硬化症
後縦靭帯骨化症
骨折を伴う骨粗しょう症
多系統萎縮症
初老期における認知症
脊髄小脳変性症
糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
早老症
脳血管疾患
進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
閉塞性動脈硬化症
慢性関節リウマチ
慢性生息性肺疾患
脊柱管狭窄症
両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
末期がん
・介護サービス利用までの流れ
(1)要介護認定の申請(市区町村の窓口や地域包括センターなど)
(2)認定調査・主治医の意見書
(3)審査・判定
(4)認定(7区分)
要支援1・2
要介護1・2・3・4・5
(5)サービス計画書(ケアプラン)の作成
(6)介護サービス利用の開始
余談ですが、上記(2)認定調査では、調査員が自宅を訪問して心身の状態を本人や家族に確認をするのですが、家族以外の人の前ではいつも以上にしっかりされる高齢者は少なくないようです。
筆者も親族の認定調査に立ち会っていますが、認定員の前でスクワットを披露していました。実際の状態よりも軽い判定がされてしまうとご心配の人もいるかもしれませんが、家族からの聞き取りもありますのでご安心くださいね。
本人の状態と認定結果に乖離があり納得ができない場合には、市区町村に情報開示を請求して調査項目や点数、特記事項などを確認できます。確認しても納得がいかない場合には、区分変更の申請を行い、調査からやり直しをすることができます。
筆者は区分変更の手続きも行ったことがありますが、新たな認定がされるまでの期間は、初めの認定のときとほとんど変わりませんでした。
・介護や支援を必要としている人の割合
65歳以上の第1号被保険者のうち、実際に要支援1~要介護5に認定されている人はどのくらいいるのか見てみましょう。
厚生労働省「介護保険事業報告(暫定)2019年5月分」によると、65歳以上75歳未満で約4.3%、75歳以上85歳未満で約19%、85歳以上で約60%の人が、介護や支援が必要と認定されています。
ただし、非認定者の中には、認定を受けてはいないけれど、介護や支援の手を必要としている人がいると思われます。
・介護保険サービスの種類
要介護1~5に認定された人が受けられる介護サービス(介護給付)には、大きく分けて3つの種類があります。
(1)居宅介護支援
可能な限り自宅で日常生活を送るためのプラン作成と関係機関との調整
(2)居宅サービス
(3)施設サービス
(4)地域密着型サービス(原則として居住地の施設や事業者のサービス利用に限る)
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
可能な限り自宅で日常生活を送れるよう、24時間365日必要なサービスを必要なタイミングで柔軟に行う
・小規模多機能型居宅介護
可能な限り自宅で日常生活を送れるよう、施設への通いを中心に、短期間の宿泊や自宅訪問などを組み合わせて、日常生活の支援や機能訓練を行う。
・夜間対応型訪問介護
可能な限り自宅で日常生活を24時間安心して送れるよう、夜間に自宅訪問を行う。
・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
認知症の人が可能な限り自立した日常生活が送れるよう、専門的なケアを受けながら共同生活を送る小規模の介護施設。
など
(2)居宅サービスと(3)施設サービスについては、費用を含めて、この後詳しく見ていきます。
居宅介護で受けることができる介護サービスと費用を知ろう!
自宅で生活を送りながら利用できる介護サービスで、自宅で受ける訪問サービスのほか、日帰りで施設を利用するデイサービスや施設に短期間宿泊するショートステイなどが広く知られていますが、厚生労働省が定める「居宅サービス」は、次の12のサービスを指します。
【訪問サービス】
(1)訪問介護(ホームヘルプサービス)
ホームヘルパーが、入浴・排泄・食事などの介護サービスに加え、日用生活を送る上で必要となる要介護者分の調理・選択・掃除などの家事サービス
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の人が、身体介護45分+生活援助30分利用した場合…439円+74円
(2)訪問入浴介護
持参した浴槽を使用し行われる入浴の介護サービス
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の人が利用した場合…1回あたり1,390円
(3)訪問看護
安定した病状で訪問看護が必要と主治医に認められた要介護者の居宅を看護師などが訪問して行う療養や診療補助のサービス
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の人が30分以上60分未満利用した場合…908円
(4)訪問リハビリテーション
理学療法士などの専門職が自宅を訪問して行われるリハビリテーションサービス
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の人が利用した場合…1回あたり316円
(5)居宅療養管理指導
医師・歯科医師・薬剤師などによる療養上の管理・指導
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の人が利用した場合…歯科衛生士1回あたり355円
【通所サービス】
(6)通所介護(デイサービス)
デイサービスなど、施設に通所して受ける入浴・排泄・食事などの介護サービスや機能訓練
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の要介護3の人が8時間利用した場合…1日あたり963円
(7)通所リハビリテーション(デイケア)
心身機能の回復や日常生活の自立を助けるために施設や病院などで受けられるリハビリテーションサービス
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の要介護3の人が7時間利用した場合…1日あたり1,075円
【短期入所サービス】
(8)短期入所生活介護(福祉施設でのショートステイ)
福祉施設に短期間宿泊して介護などを受けるサービス
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の要介護3の人がユニット型個室を利用した場合…1日あたり895円+食費1,380円+部屋代1,970円+日常生活費=4,245円~
(9)短期入所療養介護(老健施設・病院等でのショートステイ)
老健施設・病院等に短期間宿泊して介護などを受けるサービス
<自己負担の目安:横浜市>1割負担要介護3の人がユニット型個室を利用した場合…1日あたり1,007円+食費1,380円+部屋代1,970円+日常生活費=4,357円~
【その他】
(10)特定施設入居者生活介護
介護保険の指定を受けた介護付有料老人ホームなどに入居しながら受けられる食事・排泄・入浴などのサービス
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の要介護3の人が利用した場合…1ヵ月あたり21,483円+管理費+家賃+日常生活費+おむつ代など
(11)福祉用具貸与
日常生活の自立を助ける福祉用具の貸与サービス(貸与金額の1~3割負担)
車いす・特殊寝台・体位変換器・移動用リフト・歩行器など13種類
(12)特定福祉用具販売
排泄や入浴のための福祉用具を指定業者から購入した場合、年間9万円(1割負担の場合)を限度として一部払い戻しされるサービス(購入価格が10万円を超えた分は全額自己負担)
腰掛便座・入浴補助用具(入浴用いす・浴槽内いす)・簡易浴槽など5種類
ほかに、在宅の要介護者が自宅での生活を続けるために行った住宅改修の費用を払い戻すサービスもありますが、詳細は各自治体のホームページなどでご確認くださいね。
さて、様々な居宅サービスを見てきましたが、実は利用できるサービスの量が、介護度別に決められています。
例えば、要介護3の人が、介護保険での支給限度基準額269,310円を超えて、300,000円分の介護サービスを利用した場合の自己負担額(1割負担)はいくらになるのでしょうか。
269,310×10%=26,931…(1)
300,000-269,310=30,690…(2)
(1)+(2)=57,621円
答えは、57,621円となります。
上記は上限を超えるほど介護保険をフル活用した場合ですが、実際に居宅サービスを受けている人たちの自己負担はいくらくらいなのでしょうか。
2018年度介護給付等実態調査の概況(厚生労働省)によると、2018年4月審査分の介護度別平均負担額(1割負担者)は下記のとおりとなっています。
要支援1: 1,335.8円
要支援2: 2,204.9円
要介護1: 7,418.4円
要介護2:10,398.0円
要介護3:15,628.9円
要介護4:19,049.2円
要介護5:23,649.8円
予想しているよりも少ないと感じられた人も多いのではないでしょうか。これはあくまでも介護サービスの自己負担額の平均です。介護サービス以外にも、実際にはおむつ代や通院時のタクシー代などが予想外にかかったりします。
施設介護で受けることができる介護サービスと費用を知ろう!
できるならば住み慣れた自宅で介護をしたいけれど、状況によっては難しかったりしますね。そんな場合は施設への入居を考えますが、費用はどれくらいかかるのでしょうか。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム/とくよう)
入浴・排泄・食事などの介護や日常生活のサポート、機能訓練などを行う施設
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の要介護3の人がユニット型個室を利用した場合…1ヵ月あたり24,957円+食費41,400円+部屋代59,100円+日常生活費=125,457円~
※平均在所日数:2013年調査1,405日
介護老人保健施設(老人保健施設/ろうけん)
日常活動動作のリハビリを行い、在宅生活への復帰を目指す施設
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の要介護3の人がユニット型個室を利用した場合…1ヵ月あたり28,430円+食費41,400円+部屋代59,100円+日常生活費=128,930円~
※平均在所日数:2013年調査311日
介護医療院
慢性期の医療と介護のニーズのある高齢者向けの、日常的な医学管理・機能訓練・日常生活をサポートする施設
<自己負担の目安:横浜市>1割負担の要介護3の人が従来型個室を利用した場合…1ヵ月あたり33,286円+食費41,400円+部屋代49,200円+日常生活費=123,886円~
※平均在所日数:2013年調査168日
比較的お財布にやさしいと言われる特別養護老人ホームですが、1ヵ月13万円かかる人が約4年間在所した場合の費用は624万円になります。年金生活者には厳しい金額ですね。
介護にかかる費用の負担を減らす制度を知ろう!
月々かかる介護費用は大体わかりましたが、介護の一番厄介なところは、何年間その状態が続くのかが読めないところですね。長く続いたときのためにも、できる限り介護費用は押さえておきたいところ。介護にかかる費用の負担を減らす制度をチェックしましょう。
・高額介護サービス費
1ヵ月の介護サービス費等の自己負担額が上限額を超えた場合、超えた額が申請によって支給されます。
<限度額>
・課税所得145万円以上の人がいる世帯の人…44,400円(世帯)
・どなたかひとりでも市区町村民税を課税されている世帯の人…44,400円(世帯)
・どなたも市区町村民税を課税されていない世帯の人…24,600円(世帯)
・前年の所得と公的年金の合計が80万円以下の人…24,600円(世帯)、15,000円(個人)
・生活保護受給世帯の人…15,000円(個人)
・高額医療・高額介護合算療育費制度
医療保険(健康保険)と介護保険の1年間の自己負担合計額が限度額を超えた場合、超えた額が申請により戻ってきます。
<限度額>
・課税所得が690万円以上の人…212万円
・課税所得が380万円以上の人…141万円
・課税所得が145万円以上の人…67万円
・課税所得が145万円未満の人…56万円
・市区町村民税を課税されていない人…31万円
・どなたも市区町村民税を課税されていない世帯の人…19万円
・世帯分離
世帯分離とは、住民票上で1つの世帯だったものを、2つの世帯に分けることをいいます。
介護保険利用時の自己負担割合は、所得によって1~3割となっていることに加え、所得が多いほど自己負担額も高く設定されています。最近、経済的な負担を減らすために、所得の低い親世帯と所得の高い子世帯とを分離する方法が注目を集めています。しかし、メリットだけではなく注意しなければいけない点も多いため、慎重に検討しましょう。
<メリット>
・医療費や介護費の自己負担額が減る場合がある
・介護保険料などが安くなる場合がある
<注意点>
・生計が別であることが前提となっている
・生計が別になるため、親の扶養控除は使えない
・医療保険(健康保険)が別々になるため、子世帯が会社員で家族療養付加金などがあっても利用できない
・世帯が分かれることで、住民票取得などに委任状が必要になる
・子世帯に医療費などがかかっている場合、それまで使えていた高額介護・高額医療合算制度が利用できない場合がある
介護の期間が読めないため、介護の費用をどう賄ったらよいか悩むところではありますが、基本的には介護を受ける人の資産や収入で賄うことを前提に考えていきましょう。子世帯が親の介護費用を負担する場合は、自分たちの老後資金が枯渇しないよう、考えながら負担することが大切です。
また、介護のために離職することは、できる限り避けましょう。家族を介護する入社1年以上の労働者は、対象者一人あたり、通算93日まで介護休業を取得することができます。(3回まで分割可能)また、事業者は介護をする労働者のために、労働時間の短縮やフレックスタイム制度、始業・終業時刻の繰下げ・繰上げなどの措置を講じることになっているので、上手に利用していきましょう。
介護にかかる費用、その軽減の制度など、ファイナンシャル・プランナーに相談して、介護される親御さんにとっても、介護するお子さんにとっても、心身&経済的に負担の少ない方法を見つけましょう。
※本ページに記載されている情報は2019年8月20日時点のものです
【参考文献】
厚生労働省老健局総務課「公的介護保険制度の現状と今後の役割」2018年度
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000213177.pdf
厚生労働省「介護保険制度について(40歳になられた方へ)」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/2gou_leaflet.pdf
横浜市介護保険総合案内パンフレット(ハートページ)
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/fukushi-kaigo/koreisha-kaigo/kaigo-hoken/heart-page.files/tebikiall.pdf
ほか
中垣 香代子(なかがき かよこ)
株式会社FPフローリスト
中垣 香代子(1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者、2種証券外務員、防災士) 大手損害保険会社に約10年勤務後、夫の転勤に伴い転居を重ねながら3人の子育てに専念。教育費を「仕組みづくり」で無理なく準備した実績から、「ストレスを溜めずにお金が貯まる家計管理」を提唱。 また、自らの経験から、経済的理由で進学をあきらめるお子さんが1人でも減ることを願って、就学支援制度を広める活動にも力を入れている。