【養育費】年収別の平均額、子供の人数別の平均額は?受け取るために必要なことも
離婚しても子供はしっかり育てたいと望むのは、親として当然のことでしょう。そのためには別れた相手からの養育費は大変重要な収入源です。離婚後の生活設計を考えずに別れてしまい困ることがないように、養育費の平均額や受け取る方法について解説します。
目次
養育費の算出方法は?
養育費とは子供が経済的、社会的に自立するまでに必要な費用のことで、具体的には「衣食住にかかる費用」「教育費」「医療費」などがこれに当たります。離婚をして親権者でなくなっても、子供の親であることには変わりなく、親権を持つ親に対して養育費の支払い義務があります。
しかし、実際にいくらの養育費が適正なのかは、一般の人にはよくわかりません。たとえば教育費だけでも私立学校に通っていれば年間100万円以上の費用がかかることもあります。
もちろん、離婚後も合意の上で学費のすべてを負担してくれる場合もあるかもしれませんが、別れた相手にも自分の生活があります。実際には期待したほど養育費を受け取れない人が多いことも事実です。
厚生労働省の「平成28(2016)年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によれば、現在養育費を受け取っているシングルマザーの割合は24.3%で、4人に1人しかいません。養育費を受け取ったことがない人も56%と半分以上になっています。
また、養育費の額を毎月決めて受け取っている人でも、シングルマザーでは平均で月4万3,707円、シングルファザーの平均額は3万2,550円と、必ずしも十分な養育費を受け取っている人ばかりではないことがわかります。
厚労省 平成28(2016)年度全国ひとり親世帯等調査結果報告
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188147.html
実態はさておき、適正な養育費とは一体いくらなのでしょう。ここでは家庭裁判所が養育費を算定するときに活用している資料をもとに、養育費を支払う側と受け取る側の年収別、子供の人数別に、養育費の目安を検証してみます。
●子供が1人の場合の養育費の目安
前述した厚生労働省の全国ひとり親世帯等調査の結果によれば、働くシングルマザーの平均年収は200万円となっています。
養育費は父親、母親のそれぞれの年収と子供の人数によって算定されます。ここでは親権を持つ母親が会社員で年収200万円の場合の算定表に基づく父親の年収別、子供の年齢別養育費を見ておきましょう。
裁判所:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
養育費は父親が会社員か自営業者かによっても、算定基準が変わります。会社員の年収は額面の給与、自営業者は売り上げから経費等を差し引いた課税所得が基準となっています。詳細は下記「養育費・婚姻費用算定表について※」で確認してください。
※養育費・婚姻費用算定表について
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file5/setumei_84KB.pdf
会社員と自営業者では、自営業者の養育費が高いように見えますが、青色申告控除などを収入に上乗せするなど、給与所得者の年収等の公平性を図った上で算出しています。
また、子供の年齢が14歳までと15歳以上では、高校、大学と教育費がピークにさしかかる15歳以上の子供への養育費が高くなっているのがわかります。
年収が高くなると養育費も高くなる傾向がありますが、1,000万円の年収がある会社員でも、毎月10万円もの養育費を払うのは大変なことです。算定表からの算出はあくまで目安であり、実際にはもっと少ない金額でも合意の上で確実に受け取る方法を選ぶという選択もあるでしょう。
●子供が2人の場合の養育費の目安
次に子供が2人の場合の養育費の目安を見ておきましょう。ここでは、第1子が15歳以上、第2子が14歳までの子供を養育した場合の目安を見ておきます。母親は上記と同じく会社員で年収200万円とします。
裁判所:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
年収600万円の会社員で養育費を見てみると、前述の0~14歳の子供が1人の場合の養育費は4~6万円、15歳以上の子供が1人の場合は6~8万円なので、合わせると10~14万円の養育費となります。
しかし0~14歳の子供1人と15歳以上の子供1人の2人の子供の養育費は8~10万円です。子供が2人だからといって2倍の養育費が目安となるわけではありません。
それにしても、年収1,000万円の会社員となると2人分の養育費は年間で168万円~192万円です。もし、新しい家庭を持って子供ができたり、住宅ローンの支払い等があれば、養育費を払い続けるのはむずかしいことが想像できます。
算定表はあくまでも目安で、お互いの生活状況等から合意できる金額を決めていくことになります。
では、このような状況下で、子供が自立するまで養育費を確実にもらうためにはどうしたらよいのでしょう。離婚する前に行っておくべき養育費の取り決めについて考えてみましょう。
養育費を受け取るために取り決めておくべきこと
養育費を受け取るために、離婚前に2人で取り決めておくことは、以下の4点です。
(1)養育費の金額
(2)養育費の支払期間
(3)養育費の支払時期
(4)振込先
下図は離婚前の父母の就労状況を表したグラフです。
父は正社員の割合が70%を超えていますが、母は正社員として働いている人の割合は3割程度。パート・アルバイトが約55%を占めています。
出典:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11920000-Kodomokateikyoku/0000188156.pdf
小さな子供を持ちながら正社員として就職し働き続けるのは大変なことですが、子供の将来がかかっています。理性を持って将来も養育費が途切れることがないようにしっかりと取り決め、書面にしておきましょう。
養育費の金額についてはすでに算定表に基づく金額を例示しましたので、ここからは、(2)~(4)について、また、養育費を受け取るためにやっておくべきことについてお伝えします。
・養育費の金額以外に取り決めておきたいこと
母子世帯になったときの母親の平均年齢は33.8歳で、末子の年齢は4.4歳です。
離婚後の養育費は子供が大学を卒業する22歳の3月末までと考えれば、15年以上の長きにわたり払われるお金となります。長きにわたり関わるお金である以上、金額以外にも支払時期や支払い方法など、詳細を取り決めて文書にしておかないと、きちんと払い続けてくれるのか確信が持てません。
特に決まった書式や、離婚するための義務ではありませんが、夫婦二人の子供が健やかに成長し、社会人として自立できるよう、最低限合意書を作成しておきましょう。
金額以外には、まず、支払いの始期と終期を決めます。特に終期については、「成人するまで」などあいまいな言葉ではなく、大学進学も踏まえ「○年○月○日まで」や、「22歳に到達した3月末まで」など、具体的にいつとわかる日にちを取り決めます。
2022年4月1日からは成人年齢が18歳に引き下げられます。「成人まで」と曖昧に合意していたら、20歳までと思っていたのに18歳までしか養育費を受け取れなかった、ということにもなりかねません。夫婦二人で子供の進路の希望も話し合った上で終期を決めましょう。
支払い方法については、「毎月口座振り込み」という場合が多いようですが、親権を持たない親が新しい家庭を持ち、子供ができた場合など、自分の新たな子供の養育費も重なり、支払いが途切れてしまう可能性もあります。
離婚時に一部はまとめて受け取る、また、子供の大学進学時や私立学校入学時など、まとまったお金がかかるときに増額して振り込んでもらう、など、子供の教育費を意識した受取り方法を考えて、支払い方法を取り決めておきましょう。
離婚してからお金のことで顔を合わせるのも楽しいことではありません。入学金などまとまったお金が必要なときに、急に増額を申し出る、ということがないように、はじめにしっかりと取り決めておきましょう。
・話し合いがまとまらない場合は
残念ながら相手が話し合いに応じてくれない、金額や支払い方について合意できない、といった場合は、家庭裁判所の「家事調停手続き」を利用することができます。
裁判ではなく、裁判官と民間から選ばれた調停委員が第三者として話し合いに入ります。家事調停手続きを利用するときは、相手の住所地か、お互いに合意した家庭裁判所に「家事調停の申し立て」を行います。
家事調停を行っても合意できなければ、「家事審判」とういう手続きに移行し、裁判によって結論が示されることになります。家事調停の申し出から、審判への移行、結論までの平均的な期間は4カ月となっているようです。
調停や審判になったときに、家庭裁判所が参考にするのが前述した算定表です。算定表はあくまでも目安ですので、できれば裁判所の手を借りず、離婚後のお互いの生活設計を思いやった上で、養育費の合意に至りたいものです。
合意内容は公正証書に残す
養育費について取り決めたことを将来にわたって確実に実行してもらうためには、公正証書として保存しておくことをお勧めします。なぜなら、取り決めた合意内容が履行されないとき、公正証書にしておけば強制執行の手続きを利用することができるからです。
・強制執行の手続きとは
養育費の分担が家事調停や家事審判で決定した場合は、養育費が振り込まれなければ、相手に約束を守るよう勧告することを、裁判所に求めることができます。
確かに裁判所から勧告の書面が来れば相手は驚くでしょうが、これだけでは過料(少額の罰金のような金銭)は求められても、強制力はありません。ましてや、夫婦二人の話し合いだけで合意した合意書のみの場合、裁判所からの勧告や過料さえもありません。
もし、合意内容を公正証書としていれば、法律に基づいた公正証書の内容を根拠に、相手の財産を差し押さえるなどして、強制的に養育費を支払わせる手続きができます。
強制執行の申し立てをするに当たって、相手にどのような財産があるのかわからない場合は、相手を裁判所に呼び出し、どんな財産を持っているかを裁判官の前で明らかにする手続きもできます。
また、本人が応じない場合は、預貯金については金融機関から、給与については勤務先から、不動産については登記所から、必要な情報を提供してもらうこともできるようになりました。
将来のことは誰にもわかりません。もしも、約束を守らないという状況に備え、念には念を入れて公正証書を作成しておくことが、将来にわたっての安心につながります。
・公正証書を作成するには
公正証書は、2人以上の間で権利や義務について取り決めた契約を、法令で定めた方式に則って作成した公文書のことです。
離婚に当たっては、当事者で話し合った内容を整理して公証役場に出向き、公証人に公正証書作成に必要なことを相談しながら、証書を作成します。
公証人は長年法律の仕事をしてきた人の中から法務大臣が任命する専門職で、公証役場は国家機関です。公正証書は法律に定められた内容で作成されるため、後日裁判になっても契約内容が無効となることもなく、単なる当事者間の合意書より信頼性が高い文書となります。
公正証書は公証人が執務する公証役場で作成するのが基本となります。もし、公証役場に持って行くまでの合意内容を取り決めることや、文書の作成がむずかしければ、弁護士や司法書士、行政書士など自分に合った法律の専門家に相談し、公証役場に持ち込む文書を作成してもらってから、公証人に相談することもできます。
また、公証役場は法務局のように地域による管轄が決まっているわけではないので、自宅や職場の近く、または全く縁もゆかりもない土地の公証役場でも手続きできます。
文書作成に当たって公証人への相談は無料ですが、手続きについては詳細に料金が決まっていますので、公証役場のホームページや電話などで確認しておきましょう。
公正証書の原本は最低20年間公証役場に保管されますので、自分が証書の写しを紛失しても再交付を受けることができます。
養育費の振り込みがなされず、いざ裁判となれば公正証書の内容に基づいた養育費の振り込みを、現状の財産や収入を開示させた上で、それでも払わなければ差し押さえ、という強い効力をもって支払わせることができます。
現在、養育費を受け取っているシングルマザーは4人に1人という実態からも、いざというときには財産の差押えまで効力がある公正証書を作成しておきましょう。
離婚の前に離婚後の生活設計を!
養育費について、双方が合意すればささやかな安心にはなりますが、養育費は離婚後の生活を支えてくれるまでの金額とはなりません。子供を育てながら自分自身も就労し、自立していくことが大前提です。
また、離婚するに当たっては養育費だけでなく、子供が小さければ面会交流や住まいを含めた財産分与など、離婚後の生活やお金に関わるたくさんの取り決めを合意しておかなければ、その後の生活設計が成り立ちません。
夫婦二人で子供を育てるのも大変な時代です。もし養育費が途絶えても子供を育てられるのか、自分の老後の生活は大丈夫なのか、漠然とした不安を抱えたまま、または安易な楽観で離婚してはいけません。離婚後の将来収支を見える化し、子供を抱えて生活できる目処が立ってから新たな生活に踏み切りましょう。
離婚後の生活にいくらのお金がかかり、そのお金を調達できるのかどうかわからない、合意書や公正証書を作成するにも誰に相談すればよいかわからない、ということであれば、まずは身近なお金の専門家であるファイナンシャル・プランナーに相談してみてはいかがでしょう。
離婚後の心配事を整理し、数字に置き換え、複数の提案から適切な専門家につないでもらうことができるはずです。
※本ページに記載されている情報は2020年7月14日時点のものです
【参考文献】
厚労省 平成28(2016)年度全国ひとり親世帯等調査結果報告
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188147.html
養育費・婚姻費の算定表について(算定表の根拠)
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
法務省:養育費
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00016.html
厚生労働省:平成27(2015)年母子世帯の年間収入状況
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11920000-Kodomokateikyoku/0000188167.pdf
他
有田 美津子(ありた みつこ)
ファイナンシャル・プランナーCFP(R) 相続診断士 大学卒業後、地方銀行にて融資業務担当。 結婚、出産後、住宅販売会社、損保会社、都市銀行の住宅ローン窓口を経て独立。 現在は、高齢になっても安心して暮らし続けられる住まい計画、資金計画の相談に力を入れている。企業に属さない独立系FPとして、有料相談に特化したお客様に寄り添う深く息の長いコンサルティングが好評。